「あれ、最近なんかお水をよく飲むようになったかな・・・おしっこもよくしている・・・」
「食べる量も減って元気がなくなってきた・・・」
「なんか痩せてきたかもしれない・・・」
「吐く回数が増えてきたかな・・・」
猫さんの様子がおかしいなと思ったら慢性腎臓病になっていたということは悲しい現実として多くあることです。
ペット保険の日本アニマル倶楽部株式会社が犬・猫の死亡原因についてまとめたデータによると、高齢猫(7歳以上)の死亡原因として最も多いのが「腎・泌尿器系の病気」になっています。


猫と暮らしていると、泌尿器にトラブルを起こさない猫はいないんじゃないかと思うくらい、腎臓・泌尿器系の病気に悩まされます。
この記事では
☑腎臓病になってしまった猫さんのフードを選ぶポイント
☑腎臓ケアのフード一覧
☑腎臓病用の療法食を食べてくれないときの工夫
☑猫の腎臓病に関する最新の研究
などについてお伝えします。
腎臓病になってしまったけど、猫さんのQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を維持してあげたい、できるだけ長く一緒にいたいという飼い主さんの参考になれば幸いです。
では、まいります!
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目次
愛猫が腎臓病になったときのフードを選ぶポイント
腎臓病になってしまったときに、大切なことのひとつが「食事療法」です。
腎臓病用のフードを選ぶポイントは5つあります。
その5つとは
- タンパク質の摂取量
- リンの制限
- ナトリウムの制限
- 添加物を避ける
- オメガ3脂肪酸を摂取する
です。
「高タンパクのフードはダメ」って本当?
腎臓病のフード選びについて書かれたサイト・書籍を見たときに最初に書かれているのが「高タンパクのフードはダメ」ということです。
これについて、私はとても疑問に思っていることがあります。
・そもそも高タンパクのフードは本当にダメなの?
・高タンパクってどれくらいが高タンパクなの?
この2つの疑問です。
まずは一つ目の疑問「高タンパクのフードは腎臓病の猫にとって本当にダメなのか?」について。
猫は真正肉食動物で動物性タンパク質を食べなければ生きていけません。
猫にとってタンパク質は最も重要な栄養素です。
それなのに低タンパクにしたほうがいいの?と不思議に思うのです。
不思議に思ったので、何冊かの書籍で腎臓病の猫の栄養について書かれた部分を確認しました。
もっともくわしいネコの病気百科―ネコの病気・ケガの知識と治療 2003年11月7日第3刷P168
ネコが慢性腎不全になったときには一般に、低たんぱく、低ナトリウムの食事を与えます。タンパク質を少なくすれば、それだけ腎臓が処理しなくてはならない窒素化合物の量は少なくなるはずです。しかし、単純にタンパク質を少なくしても、必ずしも体によいとは限りません。
中略
腎臓のはたらきが低下していても、ネコの食欲を保つためにたんぱく質をある程度は与えた方がよいといえます。
ペット栄養管理学テキストブック 2014年1月31日第1刷P154~155
慢性腎臓病の治療において、食事療法はきわめて重要である。すなわち、タンパク質、ナトリウム、およびリン酸の含有量を制限する一方で、カロリーやカリウムを補充した食事が不可欠である。
ネコの動物学 2013年12月25日初版P68
腎不全の進行防止には、食事療法が重要となる。腎不全の進行因子としては、高タンパク質食、エネルギー不足、高リン食、高血圧、高脂血症、蛋白尿などがあげられているので、これらを回避する工夫が必要となる。
犬と猫の栄養学 2015年12月24日P112
慢性腎臓病は進行性の病気です。適切な食事管理が進行の遅延と生活の質の向上に役立ちます。そのため、以下をポイントとします。
中略
臨床症状に応じたたんぱく質の制限が尿毒症による悪心、嘔吐、下痢などの軽減に役立ちます。たんぱく質不足による低アルブミン血症、貧血、体重減少などを生じないように高品質のたんぱく質源を使用します。
ペットフード・ペットビジネスの動向 (ファインケミカルシリーズ) 2012年12月7日普及版第1刷P221
慢性腎疾患においては、栄養学的にリン、蛋白質、ならびにカリウム、ナトリウムなどに配慮するべきである。犬と猫においては、慢性腎疾患の進行遅延と徴候軽減のために、リンの制限は蛋白質の制限よりもより重要であると考えられる。蛋白質を供給する原材料がリンの主要な供給源であるため、蛋白質制限のもたらす利点は食餌性リンの低減である。
ネコの気持ちがわかる89の秘訣 「カッカッカッ」と鳴くのはどんなとき?ネコは人やほかのネコに嫉妬するの? (サイエンス・アイ新書) 2015年2月25日第1刷P162~163
高齢猫に多い慢性腎臓病の予防には、水分を十分に取ってもらうこと、リンの摂取量を制限することが大切です。体重の減少は慢性腎臓病を進行させるリスク要因となることもわかっています。低タンパクのフードが腎臓によいと思われがちですが、腎臓に負担がかからないようにと、中高年期に入った健康なネコに低タンパクの食餌を与えて腎臓病の予防に効果があったという報告は、いまのところありません。
最近の研究では、高齢期に入ったら、内臓機能や筋肉の維持、抵抗力を維持するためにも消化・吸収しやすい良質のたんぱく質の摂取量およびたんぱく質からのエネルギー摂取量を増やすべきであると考えられています。
最後に紹介した「ネコの気持ちがわかる89の秘訣」だけは、低タンパクのフードが腎臓によいわけではないという記述があるのですが、これも「健康な猫」にとっての話であって、腎臓病を患っている猫に関しての記述ではありません。
その他の書籍のいずれでも、タンパク質は制限するべきと書かれているので、やはり腎臓病の猫にはタンパク質を制限したフードが良いということでしょう。
すると2つ目の疑問が生まれてきます。
タンパク質を制限するってどれくらい?
低ければ低いほどいいの?
という疑問です。
適正なタンパク質の量についてはほとんどのサイトで書かれていません。
タンパク質を制限しましょう、適切なタンパク質量にしましょう、と言われたって、「適切なタンパク質量ってどれくらいよ!?」ってなりませんか?
これについて、あるサイトでは「タンパク質は24%~26%が安心」と書かれていました。
書籍のほうを調べてみると、上記で紹介した本のうちペット栄養管理学テキストブックでは、推奨タンパク質量は乾物100g中、28-30%と記述されています。
グラム数で言うと、28~30gということになりますね。
また、ペットフード・ペットビジネスの動向(普及版)には
食餌性蛋白質摂取量は、BCSの3/5を維持するための十分量を摂取するべきで、目標は一般的に1日あたり、体重1㎏あたり、高生物価の蛋白質を少なくとも、犬で2g、猫で3g摂取することで達成できる。
と書かれています。※BCSとはボディコンディションスコアのことです。
こちらを参考にしてください。
これらを見ると、ペットフード・ペットビジネスの動向(普及版)の指標が最もわかりやすいですね。
体重5㎏の猫さんなら15g程度の高品質なタンパク質が必要ということです。
体重5㎏の猫で高齢の場合、1日に必要なカロリーは230kcal程度です。
※詳しい計算方法について知りたい方はこちらを参考にしてください。
100g当たり400kcalのフードなら、230kcalで15gのタンパク質を摂取するには、成分分析値でタンパク質が26%以上必要です。
結局のところ、ペット栄養管理学テキストブックに記載されているタンパク質含有量28~30%というのが妥当な感じですね。
リンを制限する
二つ目のポイントはリンを制限することです。
体内のリンの8割はリン酸カルシウムという形で、骨と歯に存在しています。
その他、DNA、RNAなどの核酸の成分にもなっています。
つまり、リンが不足すると、成長に支障をきたすことになります。
しかし、腎臓病の猫にとってリンは不足よりも過剰摂取が問題です。
Dennis J.Chew博士およびPatricia A.Schenck博士の論文によると、「食餌中のリンの制限は、慢性腎臓病の進行に対して強力な保護効果を発揮する」とあります。
また少し昔の研究ですが、ある慢性腎臓病の猫の研究では、維持食を食べている猫に比べ、動物向け腎臓病用療法食を食べている猫の方が腎機能障害の進行が遅く、更にQOLも 体調も良好だったという結果が出ている(Hartkeら 、1994)ようです。
リンはどの程度制限すればいいのかについては、ペット栄養学管理テキストブックによると0.4%~0.6%とされているようです。
ナトリウムを制限する
3つ目のポイントはナトリウムを制限することです。
腎臓の大きな機能は血液中の老廃物を処理して、体内の水分やミネラルの量を調節することです。
腎臓の糸球体(しきゅうたい)という部分で老廃物がろ過されるのですが、腎臓病ではこのろ過機能が低下しているので、大量のナトリウムをろ過できません。
このためナトリウムが過剰になりやすく、ナトリウムが過剰になると人間と同じように高血圧を引き起こします。
高血圧は慢性腎臓病を進行させる要因のひとつです。
そのためナトリウムを制限する必要があるのです。
でも、制限しすぎると今度は脱水を引き起こしやすくなります。
脱水も慢性腎臓病を進行させる要因なんですね。
つまりバランスが大切ということ。腎臓病の猫のナトリウム摂取量は0.2%~0.35%が適正とされています。
危険性のある添加物を避ける
4つ目のポイントは危険性のある添加物を避けることです。
危険性のある添加物とは具体的には下記の酸化防止剤や保存料、着色料です。
- BHA(ブチルヒドロキシアニソール)
- BHT(ジブチルヒドロキシトルエン)
- エトキシキン
- 没食子酸プロピル
- 亜硝酸ナトリウム
- 安息香酸
- ソルビン酸カリウム
- プロピオン酸
- 合成着色料
※これら添加物の危険性とこれらの添加物を使っているブランドについてはこちらの記事を参考にしてください。
⇒キャットフードの危険な添加物一覧|摂取すると猫はどうなる?避けるにはどうする?
さきほども書いた通り、腎臓は老廃物をろ過する臓器なので、有害物質が体内に取り込まれれば取り込まれるほど、腎臓に負担がかかります。
オメガ3脂肪酸を摂取する
5つ目のポイントはオメガ3脂肪酸を摂取することです。
オメガ3脂肪酸の代表はDHAとEPAで、血液サラサラ成分として有名になりましたね。
人間用のサプリメントでもDHA・EPAのサプリは人気のようです。
さきほど紹介した、この論文内に(犬および猫の慢性腎不全の栄養管理)オメガ3脂肪酸についても述べられています。
オメガ3脂肪酸を添加すると、糸球体濾過量(GFR)が 維持されるのに加え、コレステロール ・ トリグリセリド、蛋白尿および組織損傷が軽減することで、腎臓の保護効果が得られる。
とあります。
ただし、重要なのはオメガ3脂肪酸とオメガ6脂肪酸のバランスのようです。
これらの理想的な比率は臨床的には明らかにされていないとしながらも、オメガ6およびオメガ3の比率は5:1以下で、食餌摂取量100kcalあたり0.5~1.09gのオメガ3脂肪酸が推奨されることが多い。と書かれています。
例えば腎臓病の療法食として人気の高い、ヒルズのプリスクリプション・ダイエット™(特別療法食) <猫用> k/d™ ケイディー ドライの成分を確認すると
- オメガ3脂肪酸 0.87%
- オメガ6脂肪酸 3.49%
が配合されています。
オメガ6:オメガ3の比率は約4:1と上記の基準クリアですが、100kcalあたりのオメガ3脂肪酸はは約0.21gとなり、上記の基準からするとオメガ3脂肪酸の量は少し足りないようです。
まとめると、タンパク質、リン、ナトリウムを制限し、オメガ3脂肪酸を摂取することで、慢性腎臓病の猫の生活の質を維持できるということです。
サイエンスダイエットで有名な日本ヒルズ・コルゲート株式会社の調査によってもこのことが明らかになっています。
犬と猫の慢性腎臓病(CKD)の食事管理というレポートによると、慢性腎臓病のステージ2~3の猫45頭での実験において、療法食を与えたグループ22頭と通常食を与えた23頭の24ヶ月後を比較すると
- 療法食グループは腎疾患による死亡例0頭
- 一般食グループでは23頭中5頭が死亡した
という結果が出ています。
最後に療法食選びのポイントをまとめます。
☑タンパク質は28~30%程度に制限されたフードを選ぶ
☑リンは0.4~0.6%に制限されたフードを選ぶ
☑ナトリウムは0.2~0.35%に制限されたフードを選ぶ
☑危険な原材料・添加物の入ったフードを避ける
☑オメガ3脂肪酸を100kcalあたり0.5g以上摂取できるフードを選ぶ
このあと、これら5つのポイントを考慮しながら、市販の療法食を紹介します。
療法食で予防もできる?
猫さんが腎臓病になるのを恐れるあまり、高齢になったからということで、健康なのに腎臓病用の療法食をあげたりしていませんか?
これはさきほど紹介した「ネコの気持ちがわかる89の秘訣」の中に書かれている通り逆効果です。
ネコの気持ちがわかる89の秘訣 2015年2月25日第1刷P162~163
高齢猫に多い慢性腎臓病の予防には、水分を十分に取ってもらうこと、リンの摂取量を制限することが大切です。体重の減少は慢性腎臓病を進行させるリスク要因となることもわかっています。低タンパクのフードが腎臓によいと思われがちですが、腎臓に負担がかからないようにと、中高年期に入った健康なネコに低タンパクの食餌を与えて腎臓病の予防に効果があったという報告は、いまのところありません。最近の研究では、高齢期に入ったら、内臓機能や筋肉の維持、抵抗力を維持するためにも消化・吸収しやすい良質のたんぱく質の摂取量およびたんぱく質からのエネルギー摂取量を増やすべきであると考えられています。
療法食はあくまでも腎臓病になってしまった猫さんの進行を遅らせるために作られたフードです。
健康で元気な猫に与えると、栄養不足になる可能性があります。
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腎臓病の猫さん用療法食セレクション
ある慢性腎臓病の猫の研究では、維持食を食べている猫に比べ、動物向け腎臓病用療法食を食べている猫の方が腎機能障害の進行が遅く、更にQOLも 体調も良好だったという結果が出ている(Hartkeら 、1994)というデータをお伝えしましたが、腎臓病になってしまったら、掛かりつけの獣医師さんに相談して、療法食に切り替えたほうがよさそうです。
ここでは、市販されている療法食を紹介します。
どれが一番いいということではなく、それぞれ一長一短ですね。
しかし、共通して言えるのは、オメガ3脂肪酸を推奨の100kcalあたり0.5g以上摂取できるフードがなかったこと。
個人的にはロイヤルカナンは療法食にも酸化防止剤にBHA、没食子酸プロピルを使っているのでいい感じがしません。
スペシフィックの「低Na-リン-プロテイン FKD」がいいかなあと思うのですが、タンパク質含有量がちょっと低いのが気になります。でもカロリーは確保できるし、オメガ3脂肪酸の含有量も多いし、バランス的にはよさそうです。

ロイヤルカナンは成分表記が100g当たりではなく、400kcal当たりと意味がわからない表記になっているので、100g当たりに換算しています。そしてオメガ3のみの配合量も不明です。オメガ6との合算での表記になっています。
原産国:フランス
粗タンパク質:22.9%
リン:0.3%
ナトリウム:0.4%
オメガ3+オメガ6:.19%

最後に療法食というわけではないのですが、腎不全を起こしている猫さんに向いているのではないかというフードを紹介します。これまで紹介した療法食は第一原材料がすべて穀物になっています。
でも、猫の生態を考えると、穀物は猫に向いていません。
猫は真正肉食動物なので、同じタンパク質でも植物性タンパク質ではなく、動物性タンパク質を必要とする生き物です。
この点で私は市販の療法食が気に入らないのです。
本来はグレインフリーで、リン・ナトリウムの含有量が少なく、さらにオメガ3脂肪酸が配合されているフードがいいのではないかと思うのです。
それがモグニャンです。
原産国:日本
粗タンパク質:30.0%
リン:0.53%
ナトリウム:0.3%
オメガ3:2.08%、オメガ6:2.95%
リン・ナトリウムは療法食と同等レベルで、オメガ3の配合量はここで紹介した療法食よりも上です。
100kcalあたりのオメガ3配合量は0.56gです。
ここで紹介した療法食の中でオメガ3の配合量が最も多いのがスペシフィックの「低Na-リン-プロテイン FKD」で0.47gです。
モグニャンは良質な動物性タンパク質を主原料にして粗タンパク質が30%、リン・ナトリウムは十分に制限されていて、オメガ3の配合量も多い。腎臓に負担がかからない理想的なフードだと思います。
※モグニャンのもっと詳しいレポートはこちら
⇒モグニャンキャットフード本音の口コミレポート【ネットの情報に騙されないで!】
療法食を食べてくれないときにはどうする?
猫は好みがうるさいので、療法食に限らず、フードを変えると食べてくれないことが多いです。
フードの切り替えは、今までのフードに新しいフードを少しずつ混ぜながら1週間から10日かけて切り替えていくというのがオーソドックスな方法です。
1日目は新しいフードを1割。2日目は新しいフードを2割。という感じですね。
そのほかには少し温めるのも効果的です。野生の猫は狩った獲物をそのまま食べる習性をもっているので、体温くらに温めてあげると食べてくれるかもしれません。
温めることによって匂いも強くなるのでそれも効果ありです。匂いを強めるには、ウェットフードの煮汁などを加えても良いでしょう。
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猫の腎臓病とその症状
ここからは猫が腎臓病で苦しまないように、予防するには何に気を付ければいいのかということについてお伝えします。
そのためには、まず腎臓病について、またなぜ猫は腎臓病にかかりやすいかということについてみておいたほうがいいので、そこから始めます。
猫は腎臓や尿路など、尿を作って出すための器官にトラブルを起こしやすい生き物です。
最初に示した猫の死因のデータにもある通り、7歳以上の猫に最も多い病気が尿路系・腎臓の病気です。
腎臓は一度傷むと、もとの健康な状態には戻らないと言われています。
私たちができることは、高齢期に入った猫の健康状態に気をつけ、腎臓に負担がかからないようなフードを選んであげることです。
腎臓病には急性腎不全と慢性腎臓病があります。
急性腎不全は、腎臓が突然十分に働かなくなる病気です。
腎臓そのものに異常が起こった時だけでなく、他の病気から急性腎不全を起こすこともあります。
心筋症で血栓ができたときや、尿道がつまって尿を排泄できなくなったときなどに急性腎不全を発症する例が多いようです。
急性腎不全は早く気づけば、治療を行うことで回復します。
しかし、発見が遅れると尿毒症の症状があらわれるとともに、口から出血したり、口からアンモニア臭がしたり、ひどい場合にはけいれんを起こすこともあります。
そして不治の病である慢性腎不全へと進んでしまいます。
一方の慢性腎不全になると完治するのは不可能です。
いかに寿命を延ばしながら、QOL(生活の質)を高めてあげるかを考えなければなりません。
このような状態にならないようにするために、普段から猫さんの状態を観察し、普段と違うことがあったら、ためらうことなく獣医師に相談することが大切です。
腎臓病の症状には以下のようなものがあるので、このような症状を見逃さないようにしましょう。
慢性腎臓病の症状
ステージ1 多飲多尿
慢性腎臓病のもっとも軽い状態です。
この段階では血液検査でも異常は出ません。
尿にタンパク質(アルブミン)が大量に排出される場合があるので、高齢になったら定期的な尿検査をするのがおすすめです。
この段階でみられる症状は「多飲多尿」のみなので、見逃すことが多いのが現実です。
飼い主さんの中には、普段水を飲まないうちの猫がよく水を飲んでくれるようになったと喜ぶ人もいるほどです。
そのためほとんどの場合、ステージ2に移行します。
ステージ2 多飲多尿
この段階になると血液検査でも異常がみられるようになります。
老廃物のクレアチニンが正常範囲を超えてきます。しかしこの段階でも症状は「多飲多尿のみ」。
猫は元気で普通に食事もするので、腎臓にトラブルが起こっているとはなかなか気づきません。
ステージ3 多飲多尿・食欲不振・嘔吐・下痢・口内炎・貧血・痩せてくる
この段階になってはじめて「あれ、おかしい」と気付く飼い主がほとんどです。
糸球体の機能が低下しているので、体内に毒素がたまり始めます。
多飲多尿の症状がさらにひどくなり、水を飲む量が少しでも減るとすぐに脱水を起こします。
ステージ4 激やせ・食欲不振・嘔吐
この段階になると手の施しようがありません。人間なら人工透析を受けている段階です。
糸球体の機能はさらに低下し、毒素を排泄することがほとんどできなくなっています。
そして死に至ります。
ステージ2の段階で気付いてあげることができれば、生活の質を維持しつつ、愛猫との暮らしを長くすることもできるでしょう。
いかに普段から猫の様子を観察できるかがポイントです。
猫はなぜ腎臓病になりやすい?最新の研究
ところで猫はなぜ腎臓病になりやすいのでしょうか?
これまでさまざまな推測がなされてきました。
血液中の老廃物をろ過する糸球体は腎臓のネフロンという器官の中にあるのですが、猫はネフロンの数がとても少ないそうです。
そのためネフロンに負担がかかり、腎臓病になりやすいのではないかーということが言われてきました。
しかし、最新の研究で猫が急性腎不全になる理由がわかってきました。
2016年10月にScientific Reportsに東京大学の宮崎 徹教授が発表しました。
Impact of feline AIM on the susceptibility of cats to renal disease
(猫AIMが腎疾患に対するネコの感受性に及ぼす影響)
少し難しい話なのですが、興味のある方は読んでみてください。
できるだけ簡単にまとめると
急性腎不全の猫は尿細管の細胞が壊死して脱落し、その細胞の死骸が尿細管をふさいでしまう。そのため糸球体の機能が低下して、腎臓に炎症が起こり始める。
血液中にはAIMというタンパク質がある。
健康時はAIM は血液中で IgM 五量体と結合して存在している。
急性腎不全を発症すると、AIMは IgM 五量体から離れ、尿細管をふさいでいる細胞の死骸(ゴミ)を取り除いてくれる。
これはヒトでもマウスでも確かめられている。
しかし、猫の場合AIMとIgM 五量体の結合力がマウスの約1000倍も強く、慢性腎不全を発症しても、AIMがIgM 五量体から離れない。
AIMという血液中にあるタンパク質が猫の場合、慢性腎不全の治癒に機能していない。
そのため尿細管をふさいでいるゴミを取り除くことができない。
ということです。
この研究から、急性腎不全を発症した猫にAIMを人工的に投与することで、尿細管のつまりを解消し、腎機能を回復させることができるのではないかと期待されているのです。
これはヒトの腎不全においても応用可能だとのことです。
これで急性腎不全から慢性腎不全へ移行する猫さんが減るといいですね!
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腎臓病の治療法
ここからは腎臓病になってしまった場合の治療法について説明します。
基本は獣医師さんにお任せですが、獣医師さんのお話しがきちんと理解できるように腎臓病の治療法についても最低限の知識は持っておいた方がいいですね。
腎不全の検査
腎臓のはたらきを調べるために尿検査や血液検査を行います。
腎臓のはたらきが衰えていると、血液中に窒素化合物(老廃物)が増えていきます。
血液中の窒素化合物はいろいろありますが、腎不全の検査にはBUN(尿素窒素)とクレアチニンを調べます。
- BUNの正常値は血液100mlあたり20~30㎎
- クレアチニンの正常値は血液100mlあたり2㎎以下です。
急性腎不全
急性腎不全は軽い場合は、原因となっている病気(下部尿路症候群、心筋症など)を治療することで回復します。
しかし急性腎不全の症状が進むと尿毒症になります。
上記の血液検査の結果、BUNが100㎎以上になると尿毒症と診断されます。
尿毒症になった場合は、ただちに猫を入院させて点滴を行います。
点滴で大量に水分を補給することで、尿をたくさん作り排泄することで、原因となっている窒素化合物を排出することができます。
点滴を続けることで、1週間以内には症状が軽くなることが多いうようです。
点滴以外では、血液透析や腹膜還流(猫のお腹に液を入れて老廃物を溶かして回収する)などの方法もありますが、猫の場合、これらの治療が行われることはまれです。
また、腸で有害な窒素化合物が吸収されないように、腸内の老廃物を吸着する薬(ネフガード)を使うこともあります。
これは活性炭に似た物質からできたカプセル薬で、老廃物を吸着し、便と一緒に排泄されます。
慢性腎不全
慢性腎不全になると、治療を行っても、腎臓は健康な状態には戻りません。
そのため、治療の方針は「残った腎臓の細胞を維持し、残りの細胞の働きを効率的にする」ということになります。
尿毒症を起こしているときは、(急性腎不全の項目で説明した)尿毒症の治療を行います。
尿毒症が治まったら、食事療法と投薬により腎臓の機能をこれ以上壊さないようにしていきます。
投薬の内容としては慢性腎不全では高血圧になることが多いので、
- 高血圧を防ぐためのACE阻害薬
- 腸内の窒素化合物を吸着する作用のあるネフガード
- 体内でタンパク質の合成を促進し、貧血を防ぐたんぱく同化ホルモン
などがあります。
愛猫が腎臓病になったときに必要な治療代
考えたくはありませんが、猫さんが腎臓病になってしまったら、治療費はどれくらいかかるものなのでしょうか?
これについては、腎不全のステージ、どこの動物病院に行くか、治療に何日かかるかなどによって大きく変わってきます。
ステージの違いで治療内容や日数が変わってくるのは当然ですが、動物医療は保険がきかず、獣医師の診療料金や入院費用は、各病院によって大きく異なります。
自院で料金を自由に決めることができるんですね。
独占禁止法によって、獣医師会などが基準を決めたり、獣医師同士で協定して料金を設定したりするということが禁じられているからです。
だから全く同じ治療を同じ日数受けても料金は2倍違ったなんてこともあるわけです。
腎不全に関して動物病院にかかったときに関係する費用をまとめておきますが、あくまで参考程度にしかなりません。
このデータは日本獣医師会のホームページ内にある小動物診療料金に関する獣医師へのアンケート結果をもとにしています。(この記事でまとめた料金は中央値)
診察料 | 初診料 | 1,386円 |
再診料 | 726円 | |
入院料 | 2,619円 | |
診断書 | 1,983円 | |
処方箋 | 158円 | |
輸液(点滴) | 静脈内 | 2,999円 |
皮下 | 1,952円 | |
腹膜透析 | 6,827円 | |
血液透析 | 15,000円 | |
血液検査 | 採血料 | 727円 |
生化学検査 | 4,625円 | |
尿検査 | カテーテル採尿 | 1,127円 |
検査料 | 1,432円 |
重症の場合、輸液は入院して3~4日集中的に行われることがあります。
退院しても月に何回かは点滴のために通院しなければならないでしょう。
以上、腎不全で動物病院を受診するときに必要な代表的な項目の料金をまとめました。
しかし、例えば「入院料」の項目を取り上げてもわかる通り、動物病院の診療費は病院によってあまりにも幅がありすぎます。500円~1,000円未満の病院もあれば、25,000円~30,000円未満の病院もあるのです。

安ければよいわけでも、高ければよいわけでもありません。
高くてもそれに見合った結果を出してくれる腕のいい獣医師なら問題ないでしょう。
大切なのは、本当に信頼できる獣医師さんを見つけられるかどうかです。
獣医師業界について、そして獣医師の選び方については大きなテーマとして今後取り上げていきたいと思います。
腎臓病を予防するには
最後に腎不全を予防するためのポイントをまとめておきます。
高齢猫に多い腎臓病ですが、もちろんすべての猫が発症するわけではありません。
遺伝的に腎臓病になりやすい体質というのがあるのかどうかはわかりませんが、生活環境も腎臓病になるかどうかに大きな影響を与えているはずです。
だから、愛猫が腎臓病にならないために、私たちができることは、生活環境をよくしてあげること。
具体的には定期的な検診、普段からのトイレチェック、飲水量のチェック、安心安全なフードを与える、ということになるでしょうか。
尿検査と血液検査を受ければ、だいたい6,000円~7,000円くらいはかかります(※病院によって大きく異なります)。
これを半年に1回、定期的に受けるとすると、1ヶ月あたり1,000円程度です。
フードも安心安全なものを与えようと思ったら、1ヶ月で4,000円~5,000円はかかるでしょう。
それでも、猫さんが健康に暮らせる時間が長くなると思えば考えてみる価値は十分あるのではないでしょうか。
不安な人はペット保険を検討してもいいかもしれませんね。